量子通信とは?BB84とエンタングルメント配布の違い、東芝の開発史

量子インターネットの鍵配送には、大きく分けて「BB84」と「エンタングルメント配布」という2つの方式があります。それぞれの仕組みと、両者をつなぐエンタングルメントスワップという技術を解説します。

BB84: 偏光状態を使った鍵配送

BB84は、1984年にCharles BennettとGilles Brassardが提案した、最初の実用的な量子鍵配送(Quantum Key Distribution, QKD)プロトコルです。送信者(Alice)は、光子の偏光を4つの状態 ―― 直交基底(垂直・水平)と、それを45度回転させた対角基底(斜め45度・135度) ―― のいずれかで ランダムに用意し、受信者(Bob)へ送ります。Bobはどちらの基底を使うか知らないまま、ランダムに 選んだ基底で測定します。

送信後、AliceとBobは(値そのものではなく)どちらの基底を使ったかだけを公開 通信路で照合し、基底が一致した測定結果だけを残します(この工程を「篩い分け(sifting)」と 呼びます)。盗聴者(Eve)が光子を測定して盗み見ようとすると、量子力学の測定原理上、元の 偏光状態を必ず乱してしまうため、AliceとBobが事後にサンプルを比較することで盗聴の有無を 統計的に検出できます。これは計算量的な困難性ではなく、量子力学の法則(測定による 状態の擾乱、および非クローン定理)そのものに安全性の根拠を置く、という点が 古典暗号との決定的な違いです。

エンタングルメント配布方式との違い

BB84は「準備して送る(prepare-and-measure)」方式であるのに対し、もう1つの代表的な方式である エンタングルメント配布(1991年にArtur Ekertが提案したE91プロトコルが代表例)は、 量子もつれ(エンタングルメント)状態にある光子対を生成し、その片方ずつをAliceとBobに送ります。 両者がそれぞれ独立に測定した結果には、量子もつれ由来の強い相関(古典的な隠れた変数モデルでは 説明できない相関、いわゆるベル不等式の破れ)が現れ、この相関の強さを検証することで、 盗聴があれば相関が弱まることから盗聴を検出できます。

BB84(準備して送る方式)単一光子源から偏光状態を都度生成して送信。実装がシンプルで、現在商用展開が最も進んでいる方式
エンタングルメント配布(E91等)もつれ光子対を生成し両者に分配。信頼できる単一光子源への依存を減らせ、将来的な量子リピータ網との親和性が高い
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エンタングルメントスワップ: 量子リピータの核心

光ファイバー中の光子は伝送距離とともに指数関数的に減衰するため、単純に光子を送り続けるだけでは 量子通信の到達距離に限界があります。この限界を克服する鍵となるのがエンタングルメント スワップです。

手順は次の通りです。まず、区間A-Bにもつれ光子対を1組、区間C-Dにもつれ光子対をもう1組、 それぞれ独立に生成します(AとDが両端、BとCが中継点に相当)。次に、中継点でBとCの光子に対して ベル状態測定(Bell State Measurement, BSM)を行います。すると、BとCは一度も 直接相互作用していないAとDが、測定結果に応じて新たにもつれ合った状態に 射影されます。

これを繰り返し中継点ごとに連鎖させることで、AとDの間に直接光子を伝送することなく、両者の間に もつれを「継電」できます。これが量子リピータの基本原理であり、将来の量子 インターネットが、光の減衰による物理的な距離限界を克服するための中核技術と位置づけられています。

東芝によるBB84実機開発の歴史

BB84の実用化を最も早くから進めてきた企業の1つが東芝です。1999年、英国ケンブリッジの Toshiba Research Europe(Cambridge Research Laboratory)で量子暗号の研究を開始し、 以降着実に技術的なマイルストーンを積み重ねてきました。

1999年英国ケンブリッジ拠点で量子暗号の研究を開始
2003年世界初、光ファイバー100km超でのQKDを発表
2010年世界初、連続鍵生成レート1Mbit/秒超を達成
2017年連続鍵生成レート10Mbit/秒超を達成
近年ドイツの商用光ファイバー網で254km区間のQKDを実施、フランスではOrange Businessと提携し商用量子セーフネットワークサービスを開始。米国イリノイ・インディアナ州のデータセンター間(21.8km、商用ファイバー網)では800G暗号化伝送と連携した連続鍵生成を実証

東芝のQKDシステムは、デコイ状態を用いた効率的なBB84プロトコルと位相符号化を採用しており、 鍵の誤り確率は10⁻¹⁰未満(3万年に1回未満に相当)とされています。これらの実績は、BB84が 「理論だけの方式」ではなく、実際の商用ネットワーク上で運用可能な技術であることを示しています。

まとめ

  • BB84は光子の偏光状態を都度準備して送る方式で、現在最も商用化が進んでいるQKD方式
  • エンタングルメント配布はもつれ光子対を分配する方式で、将来の量子リピータ網との親和性が高い
  • エンタングルメントスワップは、直接相互作用しない2地点間にもつれを継電する量子リピータの核心技術
  • 東芝は1999年から研究を開始し、鍵生成速度・伝送距離ともに世界初の記録を複数積み重ね、商用展開まで進めている

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